今年に入って、回復期から整形外科に働く環境を変えました。
回復期から整形外科に職場を変えたことでみささせていただく機会を得たのが
腱板断裂に対する理学療法です。
治癒過程を阻害することなく、安全に理学療法を行うためには病態について知っておく必要があります。
なので、
今回は、
腱板断裂の病態と理学療法の目的について
まとめていきたいと思います。
腱板とは
腱板は、
棘上筋・棘下筋・大円筋・肩甲下筋
の4つ筋から構成され、ローテーターカフともいわれています。
この4つの筋の主な働きは、
関節窩に対して上腕骨頭を求心位に保つことです。
そのため、肩関節のインナーマッスルの役割があります。
肩関節を動かすには、欠かせない筋ということです!
腱板断裂の病態
腱板断裂は言葉通り、腱板構成筋が切れてしまう疾患です。
4つの筋の中で特に損傷されるのが多いのが棘上筋です。
腱板断裂が生じる原因は、2つ。
●外傷性
転倒や交通事故など明らかな受傷起点によって断裂が生じるもの
●非外傷性
腱板の加齢変性によって断裂が生じるもの
この2つの中でも、非外傷性の断裂が全断裂の8割程度を占めるといわれています。
さらに、
50歳以上では半数以上が腱板断裂を伴っているともいわれています。
つまり、
腱板断裂のほとんどが非外傷性で、50歳以上になると半分以上が腱板断裂をともなっているということです。
腱板断裂の症状
腱板断裂の方が訴える主な症状は2つ。
●痛み
●可動域制限
〈痛み〉
痛みの訴えは、
夜間時痛 ・ 安静時痛 ・ 運動時痛
と様々です。
特に、夜間時痛が多いといわれています。
痛みを訴える部位としては、肩関節の前方と外側が多いです。
『腱板断裂=痛み』ではない
腱板断裂では、痛みを訴えることが多いです。
しかし、実際に
腱板断裂を伴う80歳以上の方で2/3が無症候性である
とも言われています。
なので、腱板断裂=痛みというわけではないといことです。
腱板断裂があるから痛いのはしょうがないと思うのは、やめましょう。
〈可動域制限〉
痛みのほかに訴えるのが多い症状が可動域制限です。
「肩が上がらない」 「外旋方向に力が入らない」
といった訴えが多いですね。
腱板断裂の分類
腱板断裂には
不全断裂 と 全層断裂
の2つに分類されます。
〈不全断裂〉
不全断裂も3つに分類されます。
- 関節包内断裂
- 滑液方断裂
- 腱内断裂
〈全層断裂〉
- 小断裂(10㎜以下)
- 中断裂(10~30㎜)
- 大断裂(30~50㎜)
- 広範囲断裂(50㎜以上)
腱板が断裂するとどうなるの?
腱板が断裂することで、腱板機能が低下してしまいます。
腱板が機能低下することで下記のようなことが起こるといわれています。
【機能不全によって起こること】
- 骨頭を求心に保てない
- 骨頭が上方へシフトする
- 肩峰下圧が上昇する
- 三角筋の過活動が起こる など
上記の逸脱した動きや異常によって、肩関節の運動時にインピンジメントや肩関節周囲組織の侵害刺激によって痛みを生じることがあります。
さらに、『骨頭を求心位に保てない』ことによって、正常と逸脱した運動軸で動くため可動域が制限されることもあります。
上記の理由で、腱板断裂の大きな症状の〈痛み〉と〈可動域制限〉2つがみられるようになるということですね。
腱板断裂の範囲が大きければ大きいほど、
●骨頭の求心力が減少
●骨頭の上方へのシフトが大きくなる
といわれています。
断裂範囲を確認することも腱板機能を評価するうえで大切ということです。
腱板断裂の治療
腱板断裂の治療では、
まず第一選択として、保存療法があげられます。
保存療法の治療経過としても、70%以上は良好な結果が得られるともいわれています。
ただ、3か月以上経過してもなかなかよくならない場合は、手術療法が適応になります。
他にも
・断裂の拡大が進行した場合
・スポーツをしていて早期復帰を望む場合
などは、手術を行うことがあります。
手術としては、
●鏡視下腱板修復術
断裂した腱板を上腕骨頭にくっつけて修復する手術
が最も多く行われている手術です。
腱板断裂の理学療法
腱板断裂の理学療法としては、
保存療法 と 手術療法 どちらも関わることになります。
保存療法における理学療法の目的
保存療法での理学療法の目的は3つ
①可動域制限の拡大(肩関節と肩甲骨ともに)
②骨頭の求心位の獲得
③肩甲骨のスタビリティの獲得
①可動域制限の改善
可動域制限は、GH関節だけでなく、肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸椎など肩甲帯の可動性も低下していることが多いです。
なので、GH関節、肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸椎など制限されている部分を評価し、治療していきましょう。
②骨頭の求心位の獲得
腱板断裂では、骨頭を求心位に保つことが困難になっています。
そうすると、骨頭が逸脱した動きを呈し、痛み・可動域制限につながってしまいます。
そのため、残存した腱板の機能を向上させ、骨頭を求心位に保てるようになる必要があります。
そのためには、残存している腱板の機能を評価する必要があります。
腱板機能の評価
〈棘上筋〉
●full can test(後部繊維のストレステスト)
●empty can test (前部繊維のストレステスト)
〈棘下筋〉
●棘下筋テスト
〈肩甲下筋〉
●lift off test
●belly press test
③肩甲骨のスタビリティの獲得
腱板機能だけでなく、肩甲骨の可動性やスタビリティが低下している人も多いです。
特に上肢を挙上する際には、肩甲骨の後傾・上方回旋が必要です。
さらに、肩甲骨が機能的に動くためには、前鋸筋と僧帽筋の機能が大切です。
これらも合わせて、機能の改善を図る必要があります。
手術療法後における理学療法の目的
手術後の理学療法での目的は、
組織修復を阻害せずに肩関節の可動域と腱板機能を獲得することです。
一番注意したいのが、組織修復を阻害しないこと!
鏡視下腱板修復術では、棘上筋や棘下筋に対して縫合していることが多いです。
なので、棘上筋・棘下筋に伸張ストレスが加わらないように伸展・内転・内旋方向へは無理に動かさないことが大切です。
動かし始める期間としては、
腱組織の修復期間は6週といわれているので、6週を目安に愛護的に動かしていきましょう。
上記のことを注意しながら保存療法と同様に肩関節周囲機能の改善を図っていく必要があります。
①可動域制限の改善
②骨頭の求心位の獲得
③肩甲骨のスタビリティの獲得
まとめ
今回は、腱板断裂の病態についてまとめてみました。
病態を理解することで注意しないといけないこと、確認しておかないといけないことなどが見えてきます。
リハビリを行う前に病態を知っておくことは、大切ですね。